世界を変えるU33

教育で世界を変える

MixiCheck

最高の授業を、
世界の果てまで届けていく。

税所 篤快(さいしょ あつよし)さん
e-Education Project 代表

税所 篤快

質問しよう!

税所さんの仕事に疑問、質問あればfacebookやTwitterで尋ねてみよう!


Interview Q1.どんな問題に取り組んでいますか?

「DVD授業で、教育格差の壁を壊す。」

—税所さんが共同代表をつとめるe-Education Projectの取り組みを教えてください

発展途上国の子どもたちの教育支援を行っています。

はじまりは、大学2年生の時に訪れたバングラディシュという途上国からでした。
バングラディシュはインドに囲まれた南アジアにあります。
人口は日本よりも多く、1億5000万人もいますが、経済はとても貧しく、アジアの最貧国の1つです。

町を歩けば、たくさんの子どもたちに会うことができますが、絶対的に先生の数が足りていません。
優秀な先生は高い給料を求めて、首都のダッカなど都市部の学校へと集まってしまい、その結果、地方の貧しい子どもたちは優れた教育を受けることができません。

「大学に行ってもっと勉強して、家族を幸せにしたい。けれど、僕ら貧乏人には無理だ」
と涙を流しながら、勉強したくてもできない胸の内を話してくれた高校生がいました。

お金がない、学校が遠いなど、さまざまな理由で教育を受けたくても、受けられない子どもたちがたくさんいる。
「彼らのために、何かをしたい」
途上国の教育格差を解決するために、e-Education Projectは生まれました。

—具体的には、どのような教育支援を行っているのでしょうか?

首都ダッカから船で6時間ほど南にいったハムチャー村という田舎の村で、DVDを使った映像授業を行っています。

そこで、都心で働く有名な予備校の先生にお願いして、バングラディシュの東大と言われるダッカ大学を目指すための授業を行ってもらいそれを撮影しDVD授業として、都心の予備校に通えない貧しい高校生に届けました。

すると、1年目に合格者が出たのです。
これまで大学進学は、首都ダッカで高い授業料を払って予備校に行かなければ叶わない夢でした。それが地方の田舎の村からでも合格することができる。しかも最難関大学です。
彼らの価値観が、ガラッと変わったと思います。

—その後も、合格者は増えていったのでしょうか。

最初は半信半疑だった村民も合格者が出たことで、「俺も行けるかも」と希望を持ちはじめて、生徒数も増えていきました。

今年は200名くらいの生徒が集まり、ダッカ大学の合格者は15名。
そのうち女性が2名も受かりました。
女性の高等教育が制限されることもあるムスリム(イスラム教)国としては、田舎の村から女性の合格者が出たことは、画期的だと思いますね。

バングラディシュの成功は、日本の学生たちにも刺激を与えたようで、たくさんの日本の学生たちがe-Education Projectに参加してくれました。
今では、ヨルダン、ルワンダ、パレスチナ、フィリピン、インドネシア、ミャンマー、ルーマニアへと活動も広がっていますね。

次は、5大陸制覇を目指して、南米でも実現したいですね。

道のりは険しいですが、辺境の地から世界を変えている実感があります。

Interview Q2.今の取り組みをやろうと思ったきっかけは?

「アジア最貧国。足りないのは、教育だった。」

—バングラディシュで活動するきっかけは何だったのでしょうか?

大学で出会った友人たちと「世界を変える何かをしたい!」とよく語っていました。
何かヒントがないかと探していたときに出会ったのが、「グラミン銀行を知っていますか」という本でした。
2006年にノーベル平和賞を受賞したバングラディシュにある「グラミン銀行」とその創設者ムハマド・ユヌス博士の奮闘記にピンときたんです。

著者を調べたら、秋田大学の先生だったので、秋田大学に電話をかけると、運よく著者の先生と話すことができて。
その日の夜行バスで、すぐに秋田に会いに行きましたね。
本人の話は、本よりもさらに刺激的で、秋田から帰る頃には、バングラディシュに一度行こうと仲間たちと決めていました。

—初めて訪れたバングラディシュの印象は?

とんでもなく暑いし、人混みもすごい。
大変なところに来てしまったなと思いましたね。

ただ、日本のように秩序的なルールもなくて、どこか心地よくもありました。
2週間ほどゲストハウスに泊まりながら、グラミン銀行でインターンをさせてもらいました。

この解放された刺激的な環境を他の人にも味わってもらいたいと、100人くらい日本の学生をバングラディシュに連れてきて、村での生活を体験させたりしていました。

それで村を訪れたり、学校や病院を回っていたら、あることに気づいたんです。

バングラディシュは、どこの学校も生徒の数がすごいんですね。
一方で、先生の数が圧倒的に足りない。
聞くと4万人も先生が足りないそうなんです。

貧困国といっても、農業は盛んでお米はどんな田舎にいってもたくさんある。
だから飢餓はないんです。服もそこまでボロボロじゃない。
イメージしていた貧困国ではないなと感じました。
けれど、教育があまりにも足りていない。

その瞬間、自分が高校時代に予備校で受けていたDVD授業が頭に浮かんだんです。
これなら先生が足りなくても大丈夫だ!って。

学ぶことに飢えていた子どもの目を見た時に、いけるかもしれないと思いました。

Interview Q3.どんな高校時代でしたか?

「赤点ばかりの僕が、どうして早稲田大学に合格できたのか。」

—税所さんの高校時代を教えてください。

高校時代は、ただただ学校の授業がつまらなかったんです。
先生が魅力的じゃなかったですね。

受験とか、テストとかが前提で、1度つくった授業スタイルを何年間も使い続けているんだろうなと感じていました。
まったく知的好奇心が刺激されるような内容じゃなかったです。

でも、高校2年生の時に参加したイベントで、ある大学教授の先生が、
「変わっていることに価値があるんだ」
「クレージーな奴が、世界を変えられるんだ」
「世界を変える何かをやろう」
と熱く語っていたんです。

もう衝撃的でした。こんな先生がいるなら、大学に行ってみたい。
退屈な高校生活を抜け出して、自由を手にしたいと思いました。

—早稲田大学教育学部に進学しました。進路を決めた理由は?

小学6年生の時に、乙武洋匡さんの「五体不満足」を読んだんです。
乙武さんが卒業旅行のアメリカに一緒にいった早稲田大学の同級生たちがとてもステキで、「早稲田って、いいな」って思ってました。

でも、成績がひどかったんですよ(笑)。
授業も聞いてないから、テストも1、2点。
高校3年生にあがれないかも、というレベルでした。

担任の先生からは、このままじゃ早稲田どころか、大学にも行けないと言われて。
一念発起して、高3になる直前の春休みに予備校に通おうと思ったんです。
その時に出会ったのが、DVD授業でした。

実際に受けてみると、わかりやすくて、授業内容が長年の研究に裏打ちされていると思いました。
同じ1時間でも、学校の授業と比べて、吸収できることが10倍くらい違う印象でした。
授業に加えて、音読勉強法や脳科学的な見地から効果的な予習復習法など、学校では教えてくれないことを学んで、ぐんぐん成績がアップしていきました。
高校2年までの成績を考えると、驚きですね。
早稲田大学に合格したことを知った先生たちもびっくり。痛快でしたね。

的確な指導のもと、成績を上げたいと強く思えるハングリー精神があれば、どんなにもとの成績が悪くても、人は成長できると実感しました。
e-Education Project につながった原体験ですね。

高校時代、成績は悪かったですが、そのおかげでDVD授業に出会えました。

Interview Q4.高校生のみんなにアドバイス!

「『よそ者、わか者、ばか者』が世界を変える。」

—税所さんの行動力の源は何なのでしょうか?

人って、自分にしかできないことをやりたいと思うのではないでしょうか。
自分の周りにも、「自分の力で世界を変えたい」と思っている人がたくさんいます。
その気持ちが行動力の源かもしれません。

最近、ハンガリーで少数民族のロマの子たち向けのDVD授業をスタートさせました。
立ち上げ当時、現地のパートナーである大学教授は、私の発言に驚いてました。
「日本から突然やってきて、大昔からヨーロッパで迫害され続けているロマの問題を解決したいと言い出した。問題が何かをわかってもいいないのに(笑)」って。
ジプシーやロマの問題は、歴史的、文化的な背景が複雑に絡みあっていて、日本人の僕には理解しづらいところがあります。

でも、たとえ何も知らなくても変えたいという気持ちと、行動するおろかさと勇敢さが、時には、現地の人同士が抱えるわだかまりや超えられない壁を壊すことができる。
「バカな若者が私のところに来たけれど、その勇敢さは賞賛に値するよ」と言ってくれました。

よそ者、わか者、ばか者。だからこそ、世界を変えることができるのだと思います。

—人生の先輩から高校生へメッセージをお願いします。

これまでの取り組みは、1人では実現できなかったと思います。
バングラディシュにも1人では行けなかったかもしれない。
だから、少なくとも一緒に冒険できる仲間に出会えただけで、早稲田大学に入った意味はありますよね。自分のように、7年も通うのは長過ぎますが(笑)。
子どもの時に本で「早稲田にはいい奴がいそうだ」と思った直感は当たっていたんです。

僕の信条は、
「おもしろいか、おもしろくないか」
「やるか、やらないか」
「失うものは、なにもない」
の3つです。

e-Education Projectのアイデアをいろいろな人に相談しましたが、ほとんどの人からダメだと言われました。
それでも、実行したのは、自分の信条に従って、やるべきだと思ったからです。
みんなも、考え過ぎず、時には直感に従って、シンプルに進路を選んでみてはどうでしょうか。

受験勉強は大変だと思います。でも、今の苦難に耐え忍ぶ。
終われば、光はある。自由を手にするために闘いましょう。

かけがえのない仲間に会えただけでも、大学に入った意味がありました。


税所 篤快(さいしょ あつよし)さん
e-Education Project 代表

・1989年東京生まれ。25歳(2014年3月現在)。
・早稲田大学教育学部卒。2009年バングラディシュに渡る。
・2010年、バングラディシュでDVD授業を実施するe-Education Projectをスタート。
・農村部の貧困層からバングラディシュの東大と言われるダッカ大学に合格者を輩出。
・現在まで、ミャンマー、ハンガリー、ルワンダなど7ヶ国9地域で、プロジェクトを実施。br ・著書に「最高の授業を世界の果てまで届けよう」(飛鳥新社)「前へ!前へ!前へ!」(木楽舎)