文献ではなく、モノから人類の歴史をひも解くのが
「考古学」という
学問です。ここでは遺跡の
「発掘調査」が欠かせません。
1910年に始まった
國學院大學の考古学研究は、
既に100年以上の伝統を
誇ります。
なかでも、発掘調査の現場で学ぶ
「考古学実習」の授業は、
学生から高い人気を
集めています。
考古学を専攻する史学科4年生の
神澤さんに、
大好きな学びに熱中するキャンパス
ライフについて聞きました。

PROFILE

文学部 史学科 考古学コース4年
群馬県立前橋女子高等学校 卒業

神澤 郁美

國學院大學に入学当初の、史学科の印象を教えてください。

神澤さん: 子どもの頃から古墳や遺跡が大好きで、大学に入ったら「絶対に遺跡を掘ろう」と、決めていました。だから大学選びで重視したのは、カリキュラムに「考古学実習」があることです。しかし、高校時代は「遺跡が好き」という思いや古墳愛を共有できる友だちがいなくて、少し寂しい思いをしました。それが國學院の史学科に入った途端、そういう人たちがフツーにたくさんいて(笑)。すごい知識量や、古墳愛にあふれる友だちもでき、ようやく来るべき場所に来たなと、しみじみ感じましたね。

1年次から「考古学実習」に参加したそうですね。

神澤さん: 発掘調査の現場に出る「考古学実習」の授業は、基本的には2・3年次から履修できる授業です。でも、私は2年次になるまで待っていられず、すぐにでも遺跡を掘りにいきたい気持ちが強かったので、実習を担当する青木敬先生に相談して1年次から参加させてもらいました。そして2019年8月に、人生で初となる10日間の発掘調査に参加しました。

行き先は、國學院大學が40年近く研究・調査を進めている長野県安曇野市の「穂高古墳群(6・7世紀)」ですね。
初めての現場はどうでしたか?

神澤さん: 最初はどう掘ったらいいのかも分からず、遺物(土器・石器など)と礫(レキ:小石など)の見分け方も分かりませんでした。調査前に大学の研究室で、きれいな状態の出土品を見て触れていたので、遺物の全体像は理解していました。でも、実際の現場で遭遇する遺物の多くは、全体ではなくその一部分です。だから遺物の破片が泥まみれで出てくると、目の前にあるモノが遺物なのか、礫なのか、その判断がたちまち難しくなってしまって…。先輩や先生に教えてもらいながら、とにかく無我夢中で掘っていました。

この時の発掘調査で、何か成果はありましたか?

神澤さん: 疲労もピークに達していた中日に、ようやく遺物が出てきました。土に紛れ込んでいる破片を取り出す作業中に、「石かな?」「いや、土器かな?!」と思う、小さなかけらに当たったんです。青木先生に確認すると、「これは土器だよ!」と。この破片が、自分の手で初めて掘り出した遺物で、のちに須恵器の一部であることが分かりました。それまではチーム全体でもなかなか遺物が出ていなかったので、他のメンバーも集まってきて「おぉ~!」と歓声も。この時は嬉しさが込み上げてくるとともに、土のなかで遺物と礫を見分けられた経験が、私の自信にもなりました。

現場では、記録用に「野帳(フィールドノート)」を
使っていますね。

神澤さん: 考古学は、発掘調査の現場に出るからこそ、学べることがすごくたくさんあります。現場で手を動かしながら入ってくる遺物や現場に関する情報、先生・先輩からの専門的なアドバイスなど…。野帳は、次から次へと出てくる活きた知識を忘れないように書き留めるための必須アイテムです。私は調査ごとに分けて使い、4年間でもう十数冊にもなりました。

翌2020年は、パンデミックのため発掘調査は中止となりましたが、3年次の2021年にはようやく再開されましたね。

神澤さん: 同期の実習生たちとは、まだ一度も掘りに行けていなかったので、やっと、皆で一緒に掘れると、小躍りするほど喜びました。一方で、実習生としては2年次の発掘調査を経験しないまま、全体をリードする一番上の年次になったので、プレッシャーもありました。

1年次の発掘調査との違いはありましたか?

神澤さん: 先輩や先生から、何から何まで指示をもらって、無邪気に楽しんでいた1年次とは違い、3年次の調査では私たちが判断して調査団を動かす場面も多く、前回とは比べものにならないほど、心も体も疲れ果てました。でも、終わってみると「みっちり掘った!」という達成感が大きかったです。今回は遺構の掘る場所から自分たちで考えて決め、調査後は出土品の整理も、発掘調査の記録をまとめる「発掘調査報告書」の作成も、すべて自分たちでやり切りました。

國學院大學で考古学を学んでいて良かったと感じる点を
教えてください。

神澤さん: まず、何年次であろうと、私たち学生に意欲と好奇心があれば先生方が考古学に関する専門的なことを熱心に、どんどん教えてくれる点です。だから私も、1年次から発掘調査の現場に出ることができました。先生との距離も近いので、早くから先生の研究室に通う常連になる学生も多いですよ。

あと、OB・OGの層の厚さは伝統ある國學院ならでは。全国の地方自治体や博物館・資料館で、考古学の専門家として活躍する卒業生が多く、そんな先輩方も発掘調査に参加して、私たちをサポートしてくれます。

最後に、考古学を研究する上で、大切にしていることを
教えてください。

神澤さん: 青木先生から言われた、「発掘調査は、チャンスが一度限りの“実験”」ということです。自然科学の実験であれば、繰り返し実験を重ねるなかで再現性を確かめられます。対して考古学の発掘調査では、一度掘ってしまうと、再び同じ状態に戻すことはできません。しかしここから、教科書にのっている通説を覆すような新発見につながる可能性もあります。私も最初の頃は、「掘りたい!」という思いだけで突っ走っていましたが、いまは学べば学ぶほど、その責任感や使命感を意識するようになりました。そう考えると、少しは成長したのかな。

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