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環境工学ではこんな研究をしています

ジオキサンという工業廃水に含まれる化学物質を、微生物の力を使って分解する浄水技術の研究をしています。長い時間をかけてコツコツ続けてきたことで、実用化目前までこぎつけられました。ほかにも微生物と水という観点でいくつかの研究を並行して進めています。(北里大学 医療衛生学部 健康科学科 環境衛生学教室 清和成教授)

※このコンテンツは2018年の取材に基づき構成しています

微生物の力を使って化学物質を分解

微生物の力を利用した浄水技術の研究

私たちの日常生活の中で生じる生活排水や、工場などから排出される産業排水など、人間が使った水にはさまざまな物質が含まれていて、そのまま川や海に流してしまうと、環境を汚染してしまいます。そのため浄水技術の研究は、環境工学の中でも欠かせないテーマの一つになっています。
いくつもある浄水方法のうち、私は微生物の働きに着目し、複数の研究を並行して進めています。代表的なものは、ジオキサンという工業排水に含まれる化学物質を、微生物の力で分解処理する方法の研究です。
現在、ジオキサンは法律でその排水基準を決められているので、確実に処理しないといけません。現在、唯一効果のある処理方法は、特殊な薬品と紫外線を使うものですが、薬品代や電気代が高くつくのが難点です。やはり、捨てるものにはコストをかけたくないというのが本音で、より安価で、確実に処理できることが重視されています。
その点、微生物を使った処理方法はローコストです。共同研究している企業の試算によると、薬品と紫外線を使う方法に比べて半分くらいコストを削減できるそうです。長年の研究の結果、すでに実用化できるところまで技術は完成していますから、あとは導入する事業所が現れてくれれば、実用化に向けてはずみがつくでしょう。

実用段階に至るまでの長い道のり

私が研究を始めたころ、ジオキサン分解菌はまだ発見されていませんでしたから、その菌がどこにいるのか、そもそも菌は本当に存在しているかもわからないところからのスタートでした。とにかく手当たり次第に水や土を採取してきて、その中にいる微生物をシャーレの中で培養。ジオキサンを分解する能力があるかを検証していきました。
この段階はゼロかイチかの世界なので、ほとんど博打みたいなものです。外れることがほとんどですが、この微生物が発見できないことには前には進めませんから、気の遠くなるような仕事をコツコツ続けるしかないという、まさに入り口が大変な研究です。そんな苦労の末にジオキサン分解菌を発見することができました。
次は、この菌の特徴を調べていくことになります。分解力はどれくらいなのか、温度に対してどんな反応をするのか、こうした菌の科学的特性を明らかにしていきました。もしこの菌が生物に有害な毒素を作り出す性質ももっているとしたら、ジオキサンを分解できても実用化することはできません。今は遺伝子解析の技術が格段に進歩し、遺伝子を見れば毒素を作り出すかどうかある程度判別できますから、遺伝子解析を行い、安全性も確かめました。
そのなかでおもしろい特徴がいろいろみつかり、いよいよ実用化の糸口が見え始めたのです。現在は、企業と共同で実用化を目指していて、十分な分解力を発揮できるだけの量や活性が、水中のジオキサン分解菌にあるかどうかを評価するツールを研究しているところです。

地道な研究の末に新たな菌を発見した清和成教授

東南アジアやアフリカの人が安全な水を飲めるようにする研究

ジオキサンの研究では微生物の力をいい方向に利用しましたが、川や湖、海など自然界の水環境に生息する微生物は、人間にとって有害なケースもあります。東南アジアやアフリカでは、上下水道の整備が万全ではなく、病原性のある微生物が生息する水を生活に使わざるを得ない実情があります。こうした地域の水の安全性を確かめるのも、水環境を考えるうえでは欠かせないテーマです。
私の研究のフィールドは2つ。その一つネパールの首都カトマンズでは山梨大学の皆さんと井戸水を調べているのですが、やはり衛生的には劣悪です。日本人なら一発でお腹を壊してしまうレベルで、現地の人でもちょっと弱っていたり、体力のない子どもだったりすると下痢になってしまいます。ネパールにおける5歳以下の死因の第1位は下痢による脱水症状ですから、一刻も早く改善しなければなりません。
地下水の汚染は、ごみの投棄や下水の垂れ流しなど、現地の人が適切に水を処理していないことも原因の一つです。これから調査を進めるなかで、汚染源や汚染のされ方を特定し、これ以上水が汚染されないように現地の人たちの意識改革を促すことも重要です。
もう一つのフィールドはアフリカ大陸西部に位置するガーナです。熱帯の川には、水に触れるだけで感染し、重篤な感染症を引き起こす住血吸虫という寄生虫がよく生息しています。住血吸虫は、貝に寄生することがわかっているので、その貝を駆除すれば感染のリスクを下げられるのですが、小さい貝ですから川の中からすべて取り除いて駆除するのは無理がありますし、感染力が強いのでとても危険な作業になります。
そこで活躍するのが遺伝子解析です。糞や剥がれ落ちた細胞など、生物が生きている環境には必ずその痕跡が残っています。水の中にもその痕跡が蓄積しているはずで、その痕跡から遺伝子情報を読み取れれば、そこにどんな種類の生き物が生息しているかを推測することができます。わざわざ危険を冒して川の中を探さなくても、バケツで水をザバッと汲んでくるだけで危険な場所が割り出せるわけです。医学部寄生虫学教室の皆さんと共にこの技術を確立し、住血吸虫の駆除を進めるとともに、安全性マップを作って現地の人に情報提供することを目指しています。

取材協力:北里大学 医療衛生学部 健康科学科 環境衛生学教室 清和成教授

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