カレッジマネジメント187号
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61リクルート カレッジマネジメント187 / Jul. - Aug. 2014とって導入のメリットは大きいものと思われる。キャリアモデルを示し、キャリアパスを描く人事等級制度を整備することで、昇格というタテの序列をどう歩むかが見え易くなり、ヨコの異動も行いやすくなる。キャリアの見通しが利くようになり、選択肢も増えることになる。それを受けて大学は、前述の期待する職員像に基づき、いくつかのキャリアパスモデルを検討し、職員に示すことが望ましい。慣行に縛られたり、その時々の事情に合わせたり、一貫性のある方針で人事を行うことは難しいが、当面の課題への対応と将来に向けた職員の成長という短期と長期の視野に基づく戦略性が求められる。キャリアモデルの検討は人事の基本方針を定めるプロセスの一環でもある。また、職員自身も、自らの能力や適性、どのような働き方をしたいのかを考え、主体的にキャリアパスを描くべきである。ちなみに、前出の東大アンケートによると、職員の多くは将来も大学職員を続け、現在勤務する大学で働くことを希望しており、キャリアパスについては、約9割が幅広い業務を経験して、将来的に専門的な仕事をしたいと考えている。その一方で、「昇進・昇格を目指したい」は肯定意見と否定意見がほぼ半々で拮抗している。職員がキャリアパスを歩みながら自らを成長させていくためには、OJTを基本に据えつつ、O-JTが補完し後押しをする学習環境を整えていく必要がある。OJTについては、日々の業務経験や職場の支援が効果的な学習に繋がっているのか、ジョブ・ローテーションが成長を促進しているのかといった点に重きを置いて、大学として職員を見守り、支援していく必要がある。O-JTについては、学外で提供されている教育・研修機会に関する情報を幅広く把握・評価し、学内で用意できる研修と組み合わせ、体系性のある教育・研修プログラムを整備していく必要がある。特に、教育・研修の対象者や受講者は経験年数の浅い中堅以下の職員に偏る傾向にあり、経営層や管理職層をはじめとする中堅以上の職員が腰を据えて学ぶ機会は少ない。この点は、今後の教育・研修を考える上で大きな課題であり、前述の④で示した点とも深く関わってくる。中堅以下の職員の中には、学外の様々な教育・研修機会を活用し、自己啓発に励む職員がいる一方で、そうでない職員もいる。自己啓発にどう取り組むかは個人の選択の問題であるが、教育・研修機会の活用度が大きく異なることで、関心のずれや認識のギャップが生じ、組織運営に少なからぬ影響をもたらすことも危惧される。人事管理は制度自体も重要であるが、運用が成否を決めるといっても過言ではない。考課・昇格や異動・昇進に関わる経営層、管理職層、人事担当者への一定の信頼がなければ、職員の力を引き出し、能力の持続的向上を促すことはできない。これらの観点から、教育・研修のあり方を根本的に見直し、再整備する必要がある。貢献と処遇の均衡を見極める冷徹さも必要最後に、教員も職員もその雇用のために費用が投じられていることを常に意識し、貢献と処遇の均衡がとれているかを冷徹に見極めることが不可欠であることを付言しておきたい。年功序列的な組織では、経験・年齢を重ねるに従って処遇水準が高まる一方で、能力は頭打ちになり、処遇が貢献を上回り、その差が拡大していく傾向にあるといわれている。経験・年齢の低い時期はその逆で、トータルでは均衡がとれているともいわれているが、ある断面で処遇に見合う貢献が認められない職員が多く、その状態が続けば職場の士気は低下するだろう。職能資格制度の活用で改善される面もあるが、最終的には処遇を切り下げるか、貢献度を引き上げるしかない。現実的に前者が困難であれば、処遇に見合う貢献を引き出さなければならない。それが学納金や税金で大学を運営する者の責務である。人間は何歳になっても知性を高め、成長することができるという研究成果も示されている。個人差は大きいと考えられるが、職員の成長と貢献という点で、注目すべき見方である。人事管理は人間を理解することから始めなければならない、とあらためて思う。

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