カレッジマネジメント187号
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MITは今回は、教室だけでなく、キャンパス全体を学習の場と捉えようとしている。学習がノート型パソコンというモバイル端末に移行すれば、教室だけでなく、廊下やロビー、道路、カフェや食堂などの公共スペース、図書館など、全てが学習の場となりうる。MITはレジデンシャル・カレッジと呼ばれ、学部生はキャンパス内の寮で生活するから、寮も重要な学習の場であり、キャンパス・デザインの中の一要素である。教員の居室や研究室ももちろんこの中に組み込まれる。MITは、前述の「心と手」という校訓から、実践的な工作や実験などを重視する。これはオンライン教育やブレンド型学習が導入されても、もちろん変わらない。しかし、どのようなキャンパスの設計であれば、オンライン教育やブレンド型教育、そして実地の演習をつなぐことができるのか。「もしかしたら寮の二人部屋も、勉強机ではなく工作や協働学習ができるようにしたほうがいいのかもしれない」とグリムソン副学長は、2013年3月の来日時の講演で語った。学習や新たな知の創出は、偶発的な人と人の出会いにより生まれる。学生同士、学士-教員が日々の生活で交わり、すぐそばにあるカフェ等で議論を開始し、そのままシームレスに研究活動に移行できるといい。このような人の偶発的な出会いと関係の定着を生むキャンパス空間とはどのようなものか。MITではこうしたキャンパスを「アカデミック・ビレッジ」と名付け、夢膨らませている。MITは未来の教育に対する全学ビジョンを打ち出したが、そのような大学はまだ少ない。大多数の大学はオンライン教育やブレンド型学習に実験的に取り組んでいるだけである。しかしハーバード大学やスタンフォード大学は、オンライン教育担当副学長を新たに設け、デジタル時代における教育に真剣に取り組もうとしている。スタンフォード大学の戦略は、とにかくたくさんのオンライン教育やブレンド型学習の実践をすることである。「『オンライン教育担当副学長』が、『パワーポイント担当副学長』というのと同じぐらいバカバカしく聞こえるぐらい、オンライン教育を当たり前のものにしたい」と、オンライン担当副学長のジョン・ミッチェルは語る。2012年9月にオンライン教育担当副学長として任命されてから1年半の間に既に240科目あまりのMOOCを開発した。オンライン教育等開発のために30名強の支援体制を敷き、教員のインセンティブを促すための助成プログラムを運用した結果である(図表2)。助成プログラムでは、1科目あたり上限2.5万ドル、教育プログラムについては、採択件数は年間1〜2件であるが、1件上限10万ドルが支給される。オンライン教育の助成にあたっては、①先進性、②効果、③評価方法の3つの基準から採択を決定するとしている。単に、オンライン教育を拡大するのではなく、この助成を通じてオンライン教育の在り方や方法を、この実験を通じて模索しようという姿勢が強く表れている。スタンフォード大学は、大学として教員のオンライン教育に関わる取り組みを支援はするが、特別の方向にトップ・ダウンで動かすのではなく、教員や部局の自主性に委ねる方針である。だから、オンライン教育のためのプラットフォームもCourseraやiTunes U、NovoEd、スタンフォード大学内のOpenEdXなど、教員の好みに応じて複数のプラットフォームに分散している。ただしこれは、デジタル時代に起こりがちな寡占体制を回避するという意味もある。秘匿性の高い、学生の学習プロセスや履修状況、成績などのデータが一プラット47リクルート カレッジマネジメント187 / Jul. - Aug. 20141.先進性:当該オンライン教育/ブレンド型学習がどのように先進的であるか。このプロジェクトを通じて、われわれが学べることは何か。2.効果:スタンフォード大学の学生への効果や便益は何か。3.評価方法:このプロジェクトからわれわれが得るものは何か。うまくいったかを測る方法は何か。スタンフォード大学のオンライン教育助成基準大規模実践を通じて、デジタル時代の教育を創り出す

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