カレッジマネジメント187号
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31はどのようになっていくか」具体的なイメージを持つことが可能になり、就職活動への取り組みも積極的になっているようだ。インターンシップを実際に経験した学生達は、「企業で働くこと」のイメージが変化したと口を揃えて語る。「勤務時間の8時間も何をしているのだろうか」と思っていた学生は、インターンシップを経験することで、「8時間という限られた時間の中でいかにマネジメントするか、それがいかに大変か」を感じ取ることもできたという。長期間のインターンシップのため、総務、経理、営業、倉庫…と複数の部署で就業体験をしたことで、多方面から働き手の想いを感じ取ることができ、それが就職活動にも役立ったという学生もいた。第二に、大学での「学び」に対する影響である。普段の授業の中で、教員から示される経営上の課題も、学生は就業経験がないだけにその必要性を実感することが難しい。インターンシップ先での経験から、課題を想定しやすくなり、インターンシップ終了後の授業におけるモチベーションを維持することができるようになった学生も多いという。事前にインターンシップ候補先企業およびその業界研究を実施したうえで、実際に企業でインターンシップを実施し、机上の検討との差異を体験することで、企業風土や現場の重要性を学ぶこともできる。授業で学ぶ財務分析が、実際の企業でどのように使われているかを実感したという学生もいた。また、インターンシップでは、業務には定型業務だけではなく、業務そのものを改善や改革することがあるということが分かったという学生もいた。課題抽出から課題の分析、解決方法を考えて提案し、企業メンバーの前でプレゼンテーションを行うという経験は、大学での学びにも大きな変化を与えているという。第三に、学生自身の「人間的成長」に与える影響である。通常の学生の場合、同年代とのつきあいが多いため、自分の考えをさほど自覚せずに過ごしていることが多い。しかし、インターンシップでは、世代の異なる社員とのコミュニケーションを求められることにより、教員の立場からみても一歩成長したように感じられる学生も多いという。社会人としての責任感や人間関係を学び、人に配慮し思いやることができるようになった学生もみられるようだ。また生活上の規律という点でも成長がみられる。社員と同じリズムでの生活を経験することで、チーム作業での個人の責任の重要さ、時間の大切さを実感し、インターンシップ後のゼミや授業での態度に変化がみられた学生もいたという。インターンシップ先は、原則、各企業男女1名ずつの受け入れとなっているため、学生の希望通りになるとは限らない。希望する企業に行けない場合、学生のモチベーションが下がってしまうこともあるが、ビジネス・プロフェッション運営委員会にはこうした事例も蓄積されており、「どの企業でも経験できることに差はない。与えられた課題に十分に対応できるかどうかである」と自信を持って指導している。自身の希望とは異なっても、それに対応できる心構えを習得することは、学生にとっての「成長」に他ならないだろう。受け入れ先企業拡大が今後の課題筆者自身もインターンシップ科目を担当しているので痛感しているが、こうした取り組みは非常に骨の折れるものである。「インターンシップ」としての形を整えるだけでも労力を必要とするが、それを「学生のためになるように」行うためには、さらなる労力と工夫が求められる。今回取材をした学生はみな、「後輩にも勧めたい」と語っていたが、「このプログラムがあるから、国公立大学ではなく甲南大学への入学を決めた」という声も最近では聞かれるようだ。たとえ入学時には不本意入学であったとしても、数々の「選抜」をクリアすることで自己肯定感を高め、また、インターンシップによる発見や経験を重ねていくことにより、学生自身が大きく成長し、十分納得のできる就職先にすすむ者も少なくないという。甲南大学経営学部では、教職員が抱く課題をもとに、今後も、ボトムアップでインターンシップを推進していくという。具体的には、「BPコースでのインターンシップならではの長所を維持・継続すること」「受け入れ先企業をさらに開拓し、在学生の10%程度の参加を実現すること」「BPコース修了者の経営大学院での学びの接続」といった点が、今後の方向性として挙げられている。「ヒトを動かすのはヒト」と改めて感じさせられた本取り組みのさらなる発展を大いに期待したい。リクルート カレッジマネジメント187 / Jul. - Aug. 2014(望月由起 お茶の水女子大学 学生・キャリア支援センター 准教授)特集 インターンシップの教育効果

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