カレッジマネジメント187号
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22もちろん、ここまで来るには少なからぬ試行錯誤があった。例えば、2003年に始まったO/OCFは当初、オン・キャンパス(授業による学習と経験の振り返り)とオフ・キャンパス(インターンシップによる体験と気づき)を1年次から4年次まで交互に繰り返すサンドイッチ方式が取られていた。2009年からはオフ・キャンパスの部分を企業等から提供された課題の解決を目指すPBL方式に変えた(O/OCF-PBL)。人文社会科学系の学生の多い京産大では、このほうが学生の成長を促せると判断した結果だったと中川理事は説明する。それにしても、「インターンシップ」と「コーオプ教育」とは何が違うのか。よく訊かれる質問だという。そもそも北米発祥のコーオプ教育とは、教室での学習と職業体験とを統合しようとする教育戦略と定義されていて、学生・教育機関・雇用主が連携してそれぞれの責任の下に行う実践のことを指す。企業主導型の「インターンシップ」では職場体験が強調されがちで、そこでの学生の教育や成長は企業サイドに任せきりになりやすい。対照的に、「コーオプ教育」は明確に教育活動の一環として大学主導型で実施され、そこに企業に協力してもらう形になる。コーオプ教育は、あくまで質の高い大学教育を実現するための一手段として位置づけられるものだと中川理事は強調する。多層化・体系化されたキャリア教育さて、図表1でもみた通り、京産大のキャリア教育はいくつかの領域や科目群で構成されていている。学生の意欲に合わせた多様な科目が入学から卒業まで配置され、多層的な構造に体系化されている。2013年度には「キャリア形成支援教育科目」として計19科目(2014年度は21科目)が提供され、4,415名の学生が受講している。学部在籍者の約3分の1が受講している計算になる。このうち、インターンシップ計7科目の受講者が256名、O/OCF-PBL1~3の受講者が364名となっている。多様な科目が準備されているが、その入口に位置づくのが1年生春学期に提供される「自己発見と大学生活」だ(図表1最下部)。学部の垣根を越えて受講し、グループワークを中心としたアクティブ・ラーニング科目で、1年生全体の7割程度が受講するという。大学生活や働くことについて受講生同士で議論し、その結果を毎回まとめながら自分なりの大学マップを作っていく授業だ。この科目は、キャリア教育のポータル科目として位置づけられていて、学生たちの関心はここからインターンシップやフィールドワークへと広がっていく。しかし、学生全員が順調に進めるわけではない。不本意入学の学生もいるし、大学生活になじめず単位取得状況の芳しくない学生、学部・学科のミスマッチでつまずく学生もいる。キャリア教育は、もともと学習意欲やキャリア意識の高い学生との親和性が高く、意欲を失いがちな学生たちはそこからこぼれがちだ。そこで、キャリアの視点から大学での学びの重要性に気づいてもらうために準備された科目が「キャリア・Re-デザイン」だ(図表1の「再チャレンジ領域」)。学習意欲を失いかけている学生が、半年かけて自己開示するトレーニングをし、キャリア形成に向けて自らの学生生活のありようを再考する機会となる。そこで、一定の方向性を見出せた学生は、さらに第2ステップとして社会人インタビューなどを行う「実践フィールドワーク」へとつながる仕組みになっている。学生の意欲に合わせたキャリア科目が丁寧に構造化されている。大西課長は、こうしたやり直しのためのキャリア科目を3・4年生で受講する学生もいるという。もっと早い時期に受けるに越したことはないが、長い将来に向けて自分と向き合う貴重なチャンスと捉えれば意味のある取り組みだ。実践系キャリア科目の効果それでは、一連のキャリア形成支援教育科目はどのような成果を上げているのだろうか。実際には、キャリア科目だけの成果を取り出して可視化することは容易でない。ただ、いくつかの指標から一定の効果につながっていることがわかると中川理事は指摘する。例えば就職率だ。2008-2012年度卒業生1万3,000名余りの就職率を比較すると、実践系のキャリア科目(インターンシップ科目やO/OCFなど)の受講者(1,580名)の就職率は97.7%で、キャリア系科目をまったく受講しなかっリクルート カレッジマネジメント187 / Jul. - Aug. 2014

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